「格差を助長しかねない」「すそを踏まないか心配」「子どもにふさわしくない」…。最近では小学校の卒業式で女子児童を中心に、はかまを着用するケースが増えています。しかし、賛否の意見が分かれており、保護者らに「自粛」を呼びかける自治体もあるようです。はかまは、ハレの日の正装とされているにもかかわらず、なぜ問題視されるのでしょうか。

小学生＝新たなユーザー

近年、小学校卒業式でのはかまの着用が議論を呼んでいます。２０１１年ごろから各地の小学校で、卒業式に和装で参加する児童が増えはじめ、自治体や教育委員会が自粛を呼びかける動きも出ているようです。その理由として、「服装が華美になりすぎる」「保護者の経済的負担が大きい」などの声が目立つが、「着崩れが心配」「トイレに行く時に困るのでは」といった懸念もあるのです。point 242 | 1

注目しているのは、近年、きもの市場に多様で新たなユーザーが生まれている事実です。議論となっている小学校卒業式用のはかまも、きものへの関心の高まりの中で成立した新たな製品カテゴリーであると考えられます。規制の是非を問うより、むしろ地域や和装業界が協力しながら、どう向き合っていくかを考えるべきだと感じますね。今日の卒業式における和装人気の背景と、なぜそれが問題視されるのか、どのような解決の方向性があるのか考えてみました。point 265 | 1

着物への関心

小学校卒業式の服装の変化を受けて、名古屋市教育委員会は２０１８年１月、市内の小学校５、６年生を対象にアンケート調査を実施しました。その結果、「卒業式にふさわしいと思うから」などの理由で、「卒業式で和装を着用したい」と回答した女子児童は約半数に上ったそうです。和装、とりわけ、はかまが人気になった背景には、いくつかの要因が考えられます。まず、指摘されるのはメディアの影響です。

はかま姿で競技かるたに臨む女子高生を描いた漫画「ちはやふる」のヒットや、和装姿が登場するドラマ「ちりとてちん」、「JIN─仁─」などの影響で、２００８年ごろから小学校の卒業式にはかまを着用する児童があらわれはじめました。一部の児童がはかまで卒業式に出席するようになると、その姿を見た下級生たちの中に「私も卒業式で着たい」という児童が増え、はかま熱は高まっていったのです。point 241 | 1

さらに、和装振興研究会が２０１５年３月に全国の２０代～５０代以上を対象に実施したアンケート調査の結果では、若い世代の着用意向が高い傾向が見られました。きもの着用経験者のうち、２０代の７９.point 208 |

９％、３０代の７１.point 10 | ９％が「今後きものを着用したい」と回答しました。この調査は、１０代を対象外としているものの、若者の間で従来とは異なるきもののニーズが生まれていることがうかがえます。そして、新たなニーズの拡大に呼応するように、和装業界も動き出すことになり、保護者たちからの増加する問い合わせに対応する形で、それまで、成人式や大学の卒業式に向けて振り袖やはかまのレンタル・販売を行っていた業者が、次々と小学生向けのはかまを取り扱い始めたのでした。point 223 | 1

子供達にできること

小学校卒業式の装いを巡り、はかまだけに批判が向けられた背景には、和装への「高価」「着付けができない」「品質の良しあしが分からない」などの誤解が影響しているようです。しかし、実際には「華美」や「経済的負担」という点については、洋装も含めて対応が検討されるべき課題です。一方で、子どもたちのきものの着用意向（保護者が着用させたい意向）は高まっており、和装業界は小学校卒業式を単なる販売機会ととらえるのではなく、子どもたちがきものを好きになる機会として、積極的に支援していくべきだと思います。point 252 | 1

きものを着る児童が、素材の特徴や着付け、所作を学ぶ機会を設ければ、着用時の「着崩れ」や「身のこなし」から生じる問題も解消していけるかもしれません。地域と産業、教育機関が一体となって、取り組む価値のある課題ではないでしょうか。日本の文化である着物への関心を奪ってはいけないような気がします。point 205 | 1