もしも愛する我が子が息も絶え絶えで苦しみ続けることになったら、親は身を裂かれる以上の思いをすることでしょう。このほどベルギーで、がんに苦しむ娘をさつ害した外科医の母親が実刑を免れたことで世間の注目が集まっていることを「Mirror」などが伝えました。
母娘の苦しみ
当時14歳の娘にビニール袋をかぶせて窒息死させた母親メルナス・ディジャー(Mehrnaz Didgar)は、ベルギーのフラームス=ブラバント州ルーヴェンの裁判所で有罪判決が下されるも、執行猶予5年を言い渡され刑務所行きは免れました。メルナスは熟練の脳神経外科医です。人の命を重んじる医師が愛する娘の命を奪うことは許されるべきことではないのです。しかしながらピーター・ハートック(Peter Hartoch)裁判官は「これまでで最も心が重く、最も判決に困難な裁判」と述べうえで今回の判決を下しました。
実はメルナスの娘エリンさん(Eline)は7歳の時に甲状腺がんと診断され、母娘は7年間もがんと向き合ってきました。だがエリンさんは病魔と闘うことに疲れてきたのか、自ら死を望む言葉を発するようになったというのです。エリンさんは「なぜ、私達は命がなくなる日が来るのを待たなければならないの? 私は今すぐしにたいの。この先結婚もしたくないし子供を持つこともしたくない」とメルナスに告げたのです。娘の苦悩を痛いほど感じたメルナスも、これに心が折れてしまったようでした。
そして2017年7月26日、メルナスは勤務先のルーヴェン大学病院から薬を持ち出し、自宅でエリンさんの意識を朦朧とさせる薬を投与しました。その後、メルナスはエリンさんの口と鼻の上にビニール袋を15分ほどかぶせ続けて窒息させたのです。
その直後、メルナスは友人に電話で自分がしてしまったことの始終を告白し、車に乗って自宅を離れました。すぐに友人が警察に通報したことで、1時間後に道端でタイヤがパンクした車に乗っていたメルナスの身柄を警察官が拘束しました。その時、メルナスは「しのうと思って橋に車を突っ込んだ」と話していたそうです。またメルナスは法廷で「当時の私はしんだも同然の状態でした。そして患者によく処方していた薬を持ち出していました。この時、私と娘はしななければならないと思っていたのです。こうすることが全ての解決につながると思っていました」と語っています。
しかし、エリンさんの父親でメルナスの元夫スティーブン・パンズさん(Steven Pans)によると、エリンさんは年を重ねるごとに病気と向き合うことができるようになっていたといいます。また、痛みが酷いときでさえしにたいという意思表示をしたことはなかったと主張しました。
母の思い
今回の裁判で、検察側ではメルナスを懲役26年とし刑務所への収監を求めていました。しかし、メルナスの弁護士であるジェフ・ヴェルマッセン氏(Jef Vermassen)は「今回の事件は親が子供を愛するがゆえに至ってしまったもので、彼女にとって唯一の犯〇です。彼女は自分の罪の重さをよく認識しています」と訴え、執行猶予を求めました。その結果、執行猶予5年の判決が下されましたが、他にも精神的なサポートを受けるように言い渡されたそうです。
メルナスは判決後、「自分に再度人生をやり直す機会が与えられるとは思ってもみませんでした。これからはしっかり歩んでいこうと思います。もし時間が戻せるなら、こんなことは決して起こらなかったことでしょう。私は人〇しになんかなりたくなかった。そしてエリンの父であるスティーブンの心の痛みを感じるとともに、彼にとって私が彼の最愛の娘を奪ってしまった相手だということも十分理解しているつもりです」と明かしています。
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