フィリピンで10代の少年が麻薬犯罪捜査に絡んで殺害される事件が相次いでいることをご存知でしょうか?
今回は、フィリピンで起きている「麻薬戦争」と、その犠牲となって死んでいく少年たちについて見ていきたいと思います。
事件の概要
少年たちが麻薬の運び屋として使われていることが発覚し問題となっているフィリピンですが、ルソン島中部ヌエバエシハ州で7日、14歳の少年の遺体が川に浮いているのが見つかりました。
ビニールテープで顔をぐるぐる巻きにされ、体を約30カ所刃物で刺されていたとのこと。
警察の調べによると、この14歳の少年はゆくえ行方不明になっていたレイナルド・デ・グズマン君で間違いないとのこと。
警察はまだ少年の遺体について検視を実施していません。
グズマン君は、友達のアルナイツ君と8月18日に一緒にいる所を見られたのが最後です。
アルナイツ君は、タクシー強盗を働いたとして警察との銃撃戦で殺害されました。
19歳のカール・アンジェロ・アルナイツ君の遺体が両親に引き渡されたのは、事件から10日後の8月28日です。この翌日にグズマン君の遺体も発見されています。
アルナイツ君の遺体には、少なくとも4つの銃弾傷がありました。(胸部に3つと下腹部に1つ)
また、検察庁の検死報告によると、遺体は殺される前に顔などに暴行されたような跡があったとしています。
カロオカン警察署の報告書では、8月18日午前3時20分にアルナイツ君は、ナボタス・シティのタクシーに乗車し運転手のトーマス・バグカルを38口径拳銃で脅した後、財布を奪い
駆け付けた警察官と撃ち合いになったとしています。
彼の背中のポケットには覚醒剤の入った3つの袋、ズボンのポケットからは2つのマリファナが入った袋が発見されました。
麻薬戦争の始まり
「アジアのトランプ」ともいわれる大胆不敵な言動と強いリーダーシップでフィリピンを率いてきたドゥテルテ大統領。
彼が今抱える最大の課題は、「麻薬戦争」の終結に至る道筋が見えないことです。
ドゥテルテ大統領は、薬物犯罪の撲滅を最重要課題に掲げ、政権発足直後に「麻薬戦争」の開始を宣言しました。容疑者の殺害を容認するかのような大胆な手法によって、長年フィリピンを蝕んできた薬物犯罪の撲滅に乗り出したのです。
政権発足から100日間で70万人以上の容疑者が摘発を恐れて出頭し、これまでの年間量に相当する80億ペソ(約180億円)相当の薬物が押収されるなど、薬物対策は一定の成果を上げました。
国民の支持も高く、昨年12月に行われた世論調査によれば、調査に答えた人のうち、85%がドゥテルテ政権の薬物対策に満足し、88%が麻薬問題は改善されたと感じていると回答したとのこと。
一方で、麻薬戦争は、8000人にも上る死者を生み出しました。うち5000人は警察官以外の「自警団」により殺害されたといわれており、法の支配をないがしろにするかのような事態に対し、国内外のメディアや国連、欧米諸国、人権団体は厳しい非難の声を浴びせています。
自国の議員をも逮捕
ドゥテルテ大統領の麻薬撲滅戦争批判の急先鋒に立っていたレイラ・デリマ上院議員(57)が24日朝、逮捕されました。
フィリピン政府は、麻薬密売を主導していたとしてデリマ氏を訴追。
24日朝、現場にいたAFP記者が見ている中、デリマ氏は警察官に取り囲まれた。警察に身柄を拘束される直前に報道陣に対し、自身は無実でありドゥテルテ大統領の「抑圧」に対して声を上げ続けると述べたものの、有罪になれば終身刑を受ける可能性があるとのこと。
麻薬撲滅戦争で多くの人たちを殺害したとされる殺人部隊との関係を突き止めようと必死に活動してきた議員を、「麻薬密売を主導していた」として逮捕するなんて世も末ですよね。
これによって、デリマ氏の支持者や人権活動家からは批判が殺到し、ドゥテルテ大統領への非難の声は高まり続けているといいます。
抗議デモ
8月16日には麻薬犯罪捜査中の警官が高校生の少年(17歳)を殺害しており、警察の証言によると少年は警官がアプローチすると逃げ出し、持っていた銃を発砲してきたため、やむなく射殺したとのこと。
しかし、家族などの証言によると少年は武器を持っておらず、監視カメラの映像にも警官二人に抱えられて暗闇に連れていかれる様子が映っていることから、警察の証言が疑問視されています。
この時点で、国民の政府・警察・大統領への不信感はかなり高まっており、少年の葬儀は3千人規模の抗議デモに発展しました。
相次ぐ少年の殺害事件を受け、アベリヤ大統領報道官は今月7日の会見で麻薬犯罪撲滅について、「進め方については見直しが必要だ」と述べた一方、ドゥテルテ大統領は8日、「子どもの殺害は、我々の取り組みを妨害しようとする意図的な行為だ」と発言。
何者かの陰謀と主張することで世論の反発を抑えたい意向をにじませました。