X
    Categories: ISSUE

「死んだほうがマシ」無事故60年の高齢ドライバーの事故「まさか自分が…」


山道の交差点で一時停止し、アクセルを踏み込みました。下り坂の緩い左カーブ。ハンドル操作が遅れ、気が動転したのです。ブレーキを踏んだつもりだったが、7人が乗る車は崖から10メートル下に転落してしまいました。これがほんの数秒の出来事だったのです。

無事故が自慢

福岡市の山本隆雄さん(89)=仮名は2017年、福岡県南部で事故を起こしました。知人らを乗せ、なじみの料理店で昼食を取った帰りだったのです。女性=当時(82)が亡くなり、山本さんを含め6人が重軽傷を負いました。山本さんは自動車運転処罰法違反(過失致死傷)罪で起訴されました。裁判では「アクセルとブレーキの踏み間違い」が認定され、判決は有罪。現在も執行猶予中の身です。

ADVERTISEMENT
毎日新聞

山本さんは20代前半で免許を取り、運転歴は60年以上です。芸事の先生として、九州だけでなく、四国、中国地方へも車で出掛けていました。無事故が自慢だったのです。「踏み間違いなんて考えられない。まさか事故を起こすなんて」と、う山本さんは落ちる瞬間まで思っていたそうです。

ADVERTISEMENT
point 0 |
高齢ドライバー事故.point 60 | com

山本さんは事故後、眠れなくなってしまいました。遺族の意向で、仏前に手を合わせることは許されません。「死んだほうがマシ」。そんなふうに思い悩む時期が1年は続いたと言います。寝室に閉じこもる山本さんを案じ、山本さんのご家族も泣いていました。そんな山本さん自身「何でそうなるんかなぁ」と、高齢者が起こす事故のニュースを見ても、軽く流していたそうです。今は見るたびに「心が痛い」と語ります。自信があるベテランでも「事故はいつ何時起こすか分からない」のです。山本さんの免許は取り消され、もうハンドルを握ることはありません。事故現場には、新たにガードレールが設置されたそうです。point 346 | 1

ADVERTISEMENT
エキサイト

返納はできない

「ピシャッと止まったつもりだったけどねぇ…」6月中旬、福岡市内であった高齢者運転講習に、遠山信さん(79)=仮名の姿がありました。停止線で止まる練習で、30センチ手前にずれてしまったのです。

ADVERTISEMENT

遠山さんも事故で人を死なせた過去を持っています。12年前の冬、夕方の国道で運転中、歩行者の男性=当時(85)の飛び出しに気付くのが遅れてしまったのです。急ブレーキを踏んだが間に合いませんでした。「うわっ」という悲鳴が耳に残っているそうです。遠山さんは罰金刑を受けました。

ADVERTISEMENT
point 0 |
レスポンス

遠山さんは陸上自衛隊を経て、自動車教習所で約6年間教官として指導した経験もあります。定年後も自ら運転し、阿蘇でのボランティアなどに参加していました。運転はお手の物と信じ込んでいたのです。「衰えを感じてはいる。同市早良区で起きた6月の多重事故も人ごとではない。でも、免許を手放すことはできない。返納した妻を乗せ、買い物や病院に車は欠かせない。過ちは忘れちゃいかんけど、車は生きがいでもある」と遠山さんは語りました。point 261 | 1

ADVERTISEMENT
point 0 |
まぐまぐ!

高齢者免許と事故

75歳以上の免許保有者は18年は563万人、21年には613万人に増えるそうです。高度成長期のマイカーブームとともに生き、車に格段の愛着を抱く世代でもあります。都市と地方で交通事情は異なり、暮らし向きもみな違います。免許返納だけが答えではないのです。早良区では81歳の男性の乗用車が車5台を巻き込み、9人が死傷した事故から4日で1カ月。高齢ドライバーによる悲惨な事故を防ぎ、暮らしをどう支えるべきではないでしょうか。point 271 | 1

ADVERTISEMENT