8月15日、韓国の文在寅大統領は日本の植民地支配からの解放を記念する「光復節」の式典で演説。この日、文在寅大統領は批判を抑制して「対話と協力の道に出てくるならば、わたしたちは喜んで手を握る」と日本に対話を呼び掛けました。演説そのものは、日韓関係が悪化したそもそもの発端である徴用工問題を巡る日韓請求権協定違反について言及していませんでした。
突然なぜ、文大統領が、あのヒステリックな強硬姿勢を一転させたのか?仲介役として頼みの綱にしていた米国の動きが鈍いとか、関係改善を悲願とする北朝鮮に相手にされていないといったことは決定的要因ではなさそうです。8月に入ってから韓国経済ははっきりと黄色信号が灯っており、輸出の落ち込みが明らかで、一段の景気減速が避け難い情勢なのであるといいます。
文在寅大統領は2017年5月の就任以来、一定の批判はあるものの、根強い人気を誇っており、今なお40%台の高い支持率を維持しています。その政権基盤が文政権の対日強硬姿勢を支えてきました。経済の急減速の見通しは、その基盤を覆しかねない深刻な問題となっているようです….。
8月15日の持つ意味は日本と韓国で大きく異なる。
日本は、8月15日、昭和天皇が玉音放送を行い、ポツダム宣言を受諾する方針を国民に伝えたことから、「終戦の日」としています。今年も正午前から、恒例の政府主催の全国戦没者追悼式が日本武道館で開かれ、第2次世界大戦で命を落とした旧日本軍軍人・軍属230万人と、空襲や原子爆弾投下などで亡くなった一般市民80万人の合計310万人を宗教的に中立の立場で追悼。安倍晋三総理をはじめ三権の長や全国から招かれた遺族ら約6200人が参列しました。
天皇陛下が即位後初めて全国戦没者追悼式に出席され、令和最初の「お言葉」を述べられました。「再び戦争の惨禍が繰り返されぬことを切に願い、戦陣に散り戦禍に倒れた人々に対し、全国民と共に、心から追悼の意を表し、世界の平和と我が国の一層の発展を祈ります」と、戦後生まれの象徴天皇が令和の時代も引き続き、平和と発展を希求していくと話されたことに、多くの日本国民も共感したことでしょう。
また、安倍総理が式辞で「私たちが享受している平和と繁栄は、戦没者の皆様の尊い犠牲の上に築かれたものであることを決して忘れない」「戦争の惨禍を二度と繰り返さない。この誓いは昭和、平成、そして令和の時代でも決して変わることはない」と強調。
しかし、日本人国民がそんな平和への思いに浸っていた時に飛び込んで来た、「光復節」の式典で行われた文在寅大統領の演説のニュース。8月15日の持つ意味は日本と韓国で大きく異なり….
では、文在寅大統領はこれまでの日本を挑発するかのような発言を控えて「日本が対話と協力の道を選ぶなら、私たちは喜んで手を取り合うだろう」と述べ、元徴用工や慰安婦の問題については直接言及せず、融和を呼びかける約30分間の演説だったようです。
日本が輸出管理を簡略化する優遇対象国から韓国を除外する閣議決定をした8月2日に、文在寅大統領は、「加害者の日本が居直るばかりか、大口をたたく状況は決して座視しない」などと、感情むき出しで日本を批判。しかし、12日になると、「日本の経済報復への対応は感情的になってはいけない」とややトーンダウンの兆しをみせました。
そして、8月15日には「わたしたちは過去にとらわれないで、日本と安保・経済協力を持続してきた。日本が対話と協力の道に出てくるならば、わたしたちは喜んで手を握る。公正に貿易を行い、協調する東アジアを一緒につくっていく」などと、明らかに批判を抑えた演説となりました。
しかし、今回の貿易管理は文大統領が主張してきたような徴用工問題への報復措置ではなく、これはテロや戦争に民生品が転用されるのを防ぐための措置なのです。しかし、日韓関係の悪化の発端になったのが徴用工問題である事実を無視することはできない。昨年10月末の大法院(韓国の最高裁)判決を金科玉条とし、文政権は、日本政府の度重なる要請を無視して、日韓請求権協定違反の状態を放置してきました。このことが、両国の関係を冷え込ませたのです。
まず、元徴用工問題で、日韓請求権条約に基づいて韓国政府が果たすべき役割にのっとって、問題を解決する姿勢を明確にすることが、関係修復への出発点のはずであるにもかかわらず、そうした点について何も発言していない以上、文大統領の演説は評価に値しないでしょう。
とはいえ、文在寅大統領の突然のトーンダウンの背景に何があったのか?…それは2点あるようです。
1つは、《安全保障面で米国を含む同盟関係が揺るぎかねない状況に危機感を持ったのではないかとの見方。米国が韓国の言い分に耳を傾けず、日本の主張に理解を示しているとされることが背景だということ。》
2つ目は、《北朝鮮が、米国との軍事演習を進める文政権を非難してミサイルの発射を繰り返し、韓国との話し合いの席に戻るつもりはないとしている問題》
遅ればせながら現実を直視し始めた文政権。遠からず、韓国経済の減速は顕在化、文政権は国民の不満が爆発することを恐れて、強硬な姿勢を改めざるを得なくなる可能性が大きいでしょう…。