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13歳で体重26キロ…児童虐待の被害女性、保護から9年の今


母親と養父から虐待され、13歳で保護されたとき、身長128センチ、体重26キロの飢餓状態だった愛さん(22)=仮名。2016年3月30日付の本紙朝刊「子どもに明日を」で取り上げた彼女を覚えているでしょうか。

3年前の春、就職して里親である山本夫妻=同=の元を巣立った彼女は今、どうしているのか。その後を追いました。

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高校卒業後、愛さんは福岡県北部にある食品会社に就職しました。

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同時に、親と暮らせない子どもたちを受け入れる山本夫妻のファミリーホームから、自転車で十数分のところにあるアパートに部屋を借りました。

主な仕事内容はめんたいこの検品作業でした。上司から何度も手順を教えてもらったが、愛さんには全く理解できなかったです。

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「ノートに書いて覚えようとしたが、駄目だった。何が分からないかも、分からなくなった」。

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同僚から取り残され、職場で次第に孤立していきました。

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「もう無理だね、帰ろうか」

比例するように、私生活も荒れていました。仕事から帰宅後、当時付き合っていた彼氏とその友達が毎日のように部屋に来ました。

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カラオケボックスに入り浸り、酒やたばこを覚えました。朝方まで遊び、寝不足のまま仕事に行く毎日だったと言いました。

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生活を変えようと職場の寮に移ったが、今度はストレスから食事が喉を通らなくなりました。

愛さんからのSOSを受け、寮を訪れた里親の山本直子さん(61)はやせた愛さんの姿を見て言いました。

 「もう無理だね、帰ろうか」

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退職後すぐに入院しました。感情が抑えられず周囲に怒りをぶちまけたり、突然泣き叫んだりと異常な行動が目立ったからです。

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注意欠陥多動性障害(ADHD)と虐待による心的外傷後ストレス障害(PTSD)と診断され、精神障害者保健福祉手帳(2級)を受けました。

顎に異常なゆがみも

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20歳のとき、顎に異常なゆがみも見つかりました。小学4年のとき、養父から椅子で顔面を殴られたのが原因とみられます。今は数年後の手術に向けて歯の治療を続けている。

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愛さんは言いました。

「まだ自立には早かった。社会は厳しいと思った」

「今は仕事が楽しい」

 

福岡県内のA型作業所。愛さん(22)=仮名=は今年1月から、この作業所で働いています。

作業内容は車のヘッドレスト部分の清掃と給湯器の電池ケース製造などが主な仕事です。

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週に5日働き、月給は6万円程度。障害のある男女約30人が在籍し、愛さんは最年少です。

「みんなからかわいがってもらっている。今は仕事が楽しい」と言います。

「戻ってきたときは精神的に不安定だったが、今は以前のように元気になった」。

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ファミリーホームを運営する里親の山本直子さん(61)=仮名=は語りました。

2度の入院を経て、ホームに戻ってきた愛さんは次第に精神的に落ち着きを取り戻していました。

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昨年は職業訓練校に通い、介護士の資格も取得した。「顎の治療が終わるまではここにいるつもり。(ホームの)子どもたちにも『あと5年はいるよ』と話している」と笑顔を見せる。

実の母親との再会

Teniteo 

実の母親とは退職後に数回会った。きっかけは母からの電話でした。自宅にも1度泊まりに行きましたと。

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「家に帰りたい」と泣きながら母に電話で訴えたこともありました。

母の答えは「今まで稼いだお金をくれたらいいよ」。自分が帰る場所ではないと頭では分かっていても、産んでくれた母への思いは消えなかったです。「それが親子というものでしょう」と直子さんは言う。

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直子さんには思ったことを何でも言う愛さんだが、母の前だと途端に黙ってしまいました。

「言いたいことを言ったら家に帰れなくなるかもしれない。何より、また暴力を振るわれそうで怖い」

18歳を過ぎた愛さんは、児童福祉法に基づく保護措置が解除され、国から里親手当は支給されない。作業所の給料と障害年金から食費と治療費を負担するが、夫妻がボランティアで養っているのが現状だ。

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厚生労働省によると、里親への委託児童のうち、18歳以上は6・2%を占める。山本夫妻のホームにも、愛さんのほかに保護措置が解除された女性2人が暮らす。それでも、夫妻は「縁あって親子になった。居たいだけ居ればいい」と受け入れる。

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直子さんは「うちに来たときが0歳。愛が来て今年で10年だから今は10歳と思っている。あと10年で成人。私たち夫婦もいつまで健康か分からないけれど、元気な限り面倒をみようと思っています」と話している。(金子渡)

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里親への委託率、九州では

市岡裕子

親と暮らせない子どもを公費で育てる「社会的養護」について、国は、特定の大人と絆を結ぶ養育を重視している。

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里親やファミリーホームへの委託率を乳幼児で75%以上、

学童期以降で50%以上にする計画だが、九州7県の里親等委託率(速報値)は21・1%にとどまるだけです。

福岡市が47・9%である一方、熊本市は10・8%と自治体間格差も大きいです。

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旭川荘

職員の異動で養育環境が変化しがちな児童養護施設などに比べ、里親による養育は特定の大人と長期間触れ合えるため、子どもの「愛着形成」を促しやすいとされます。

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社会的養護が必要な子どもの大半が児童養護施設などで暮らすが、2016年施行の改正児童福祉法には、里親などによる「家庭養育優先」を原則とすることが明記されました。

さらに厚生労働省は17年8月、里親等委託率について、3歳未満は5年以内、それ以外の就学前の子は7年以内に75%以上とする▽学童期以降の子どもは10年以内に50%以上とする‐という目標を発表しました。

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これに対し、九州7県と3政令市によると、今年2~3月現在で社会的養護が必要な子どもは4526人。このうち里親の元やファミリーホームで暮らす子どもは988人といいます。

里親への委託率向上が進まない背景には、社会の理解不足や里親の絶対数不足、親権者の同意を得ることが難しい‐といった事情があります。

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まとめ

ハフポスト

社会的養護に詳しい津崎哲雄・京都府立大名誉教授は

「日本は欧米に比べ、里親制度があまりに手薄。専門機関もほとんどないのが現実。

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子育てのカリスマに頼りすぎて、児童相談所には里親支援のノウハウがないです。

委託するだけでなく、子どもが巣立つまで里親を手厚く支援する公的機関が必要だ」

と話しました。

児童・青少年虐待の犠牲者たちが心の傷を極服し、社会に復帰できて欲しいですね。

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