恋をするとき、あなたは相手の外見を気にしますか？ 顔の変形やアザ・マヒなど特徴的な外見のためジロジロ見られ、恋愛や学校生活、就職で苦労する見た目問題。顔の手術を繰り返してきた河除（かわよけ）静香さん（44）は「こんな見た目だから、私は恋愛なんて縁がない」と思っていましたが、今は最愛の旦那さんとともに幸せな家庭を築いています。
いじめと恋愛
富山県に暮らす静香さんは生まれつき動静脈奇形を抱え、血管の塊が口や鼻にあり、形が普通と違います。これまで血管の塊を切除する手術を40回以上繰り返してきました。静香さんはその事で子どものころから、いじめられました。
保育園のとき、普段は遊んでくれない男の子が、静香さんの手を握って「目をつむっていてね」と言ってきました。そして、「こっちに来て」と誘いました。男の子にうながされて目を開けると、数人の子どもたちが笑っていたのです。静香さんが足元を見ると、吐しゃ物の上に立たされていました。小学生の時は、給食当番で配膳しようとすると、「ばい菌がうつる。汚い」と言われました。フォークダンスで手をつないでもらえなかったこともあります。中学生には、社会科の授業で『基本的人権の尊重』を学んだ直後、男子生徒に「おまえなんかに基本的人権はない」と言われたこともあったそうです。point 386 | 1
思春期になった静香さん。好きな人はいましたが、「こんな見た目の私なんて……」と気持ちを打ち明けることはできませんでした。いじめられた経験から男性への苦手意識も強く、男性を避けました。そんな臆病な静香さんを変えてくれたのが友人の一言だったそうです。「私みたいな顔だと恋愛なんてできないよね」という言葉に「なんでそんなこと言うの？」と泣きながら叱ってくれたのです。そんな友人に背中を押された静香さんは中学時代から好きだった男性に告白しました。静香さんは振られてしまいましたが、相手の男性は誠実な対応を取ってくれたそうです。臆病だった静香さんでしたが、恋愛に対し後ろ向きだった姿勢が嘘のように前向きになれたのです。point 359 | 1
消えないコンプレックス
短大を卒業後、静香さんは5回ほどお見合いにも挑みましたが実りませんでした。ただ、知人から「あなたの性格は武器。明るさや面白さが伝われば大丈夫」と励まされます。その言葉を信じ、臆することなく男性に話しかけました。そして当時の職場で出会ったのが、今の旦那さん、4つ年上の悟さんなのです。
付き合い始めて1カ月後のデートの帰り、車内で悟さんが急に怒り出しました。「顔のことを、なぜ話してくれないんだ」と。静香さんが顔のことを話さないので、自分が信頼されていないと感じていたのです。静香さんは人からジロジロ見られてつらいこと、鼻血が出やすいことなどを打ち明けました。すると、悟さんは「人から見られるのが嫌なら、おれが君より目立つ着ぐるみを着て、隣を歩いてやる」と言ってくれたのです。悟さんは「これから付き合う上で、顔の話題をタブーにしたくはなかった」と当時の思いを振り返ります。悟さんは、静香さんの魅力について「社交的で、言動が面白い。見た目よりも内面のほうが重要でした」と言います。point 353 | 1
お2人は悟さん30歳、静香さん26歳のときに結婚しました。その1年後に、息子さんが生まれました。ただ、出産後、鼻の血管からの出血が止まらなくなってしまいました。
手術して出血は治まりました。でも、皮膚が盛り上がってしまい治療の中で、歯を3本失いました。子どもを生んだことは最高の幸せだったのですが、顔の形がさらに変わってしまったのです。それ以来、家から出るときはマスクが欠かせなくなりました。マスクをすると、見られない安心感が。しかしマスクを手にしたことで、外したら見られるんじゃないかという恐怖心が強くなりました。
さらに2018年にも大量に出血。富山県内の病院では処置できず、東京都内の病院に入院し、治療しました。その際、鼻の骨を取り出したため、今度は鼻の形が変わってしまいました。鼻がペシャンコになってしまい「手術のたびに、顔の変形の深刻度が増しているような気がします。」と静香さん。見た目へのコンプレックスはまったく消えず、むしろ悪化しているかもしれないそうです。それはこれからもずっと続いていくし、簡単に『顔を受け入れる』とは言えないのです。point 284 | 1
外見の自信はなくても
恋愛や結婚は幸せになるための絶対条件ではありません。だから無理に彼氏や彼女をつくる必要はないでしょう。ただ、内心は恋愛したいけど、見た目に悩んで恋愛に積極的になれない人たちはどうすればいいのでしょうか。静香さんは「調子に乗ることですよ」と言います。悟さんと出会い、静香さんは自分を認められるようになりました。他人のアドバイスを素直に信じることも大事ですが、静香さんのように、知人に言われた『あなたの武器は性格』との言葉を信じたことが今につながっています。自分で自分の魅力を見いだせなくても、他人が気づかせてくれることもあるのです。point 332 | 1